小麦相場価格の推移と価格転嫁の歴史

小麦の相場価格推移と価格転嫁

食卓に欠かすことができない小麦粉。

パンや麺類はもちろん、お菓子や揚げ物、カレーに至るまで、現代の食生活は小麦粉がないと始まらないと言っても過言ではないでしょう。

価格で考えても小麦粉は非常に安価であり、ノーブランドの商品であれば1kg100円から見つけることができ、大手メーカーのものでも1kg200~300円程度。ずば抜けた汎用性と価格の安さが小麦粉の魅力なのです。

しかし近年よく見聞きするのが「小麦粉の値上げ」。大手メーカーを中心に「〇月から数%値上げ」といったニュースを耳にすることが多いように感じます。

一方で「小麦価格の下落による商品価格の値下げ」という話はとんと聞かない。そう、小麦粉の価格は基本的に上がる一方なのです。

小麦価格は相場によって決まるため、日々上下動を繰り返しているはずなのに、なぜ値下げのニュースは聞かないのか? これまでの小麦価格の推移と、商品価格にどう転嫁されてきたか検証・解説していきます。

小麦価格の長期推移

普段私たちが目にする小麦粉の多くは「輸入小麦」を原材料とした製品。輸入先は約半数をアメリカが占め、カナダが約30%、オーストラリアが約17%と、この3国が輸入小麦のほとんどを占めているのが実情。

そして、日本においての輸入小麦の取り扱いというのは、日本政府が一括して海外から買い上げ、小麦の国際相場や海上運賃、為替相場などを勘案し「政府売渡価格」を決め、各メーカーに卸すという独特の方式をとっています。

まずは小麦の国際相場がどういった推移を辿ってきたのか、直近35年の長期間にわたって見てみます。(クリックで大きくなります)

小麦の国際相場の長期推移

どうでしょう? 数年に1回は見聞きするであろう小麦価格高騰を背景とした価格転嫁による値上げですが、2008年頃にピークがあり、2011~2012年にも高騰する場面があるものの、その後2018年にかけ価格は下落しています。

2018年頃からじわじわと上昇しているとはいえ、2008~2012年のピーク時に比べればまだまだ安価と言えるのです。

にもかかわらず製粉メーカーが販売している小麦の価格は上昇する一方…なんか釈然としないですよね。

輸入小麦の政府売渡価格の長期推移

小麦の国際相場を見ると、決して値上がり一辺倒でないことが分かります。それだけに小麦価格の上昇を理由とする値上げを繰り返すメーカーの対応には腹立たしさを感じる人も多いのではないでしょうか。

しかし、小麦の国際相場はあくまでも「純粋な小麦の取引価格」であり、政府が各メーカーなどに卸す際の「政府売渡価格」は、為替相場や海上運賃など、小麦を海外から購入する際の様々なコストを勘案し決定されます。

小麦価格に関しては相場の下落も多々見受けられるものの、為替相場や海上運賃を反映した政府売渡価格は右肩上がりになっているのかもしれない…

ということで、直近15年にわたる輸入小麦の政府売渡価格の推移を見てみましょう。(クリックで大きくなります)

小麦の政府売渡価格の推移

平成20年(2008年)に1トン当たり76,030円をつけたのをピークに、その後は48,000~60,000円の間を行ったり来たりしているのが見て取れると思います。

試しに小麦の国際相場の推移と政府売渡価格を重ねてみましょう。小麦の国際相場が政府売渡価格に反映されるまでにある程度のタイムラグがあるため厳密には正確でない可能性があることをご了承ください。

小麦の国際相場と政府売渡価格の比較

概ね動きは一致しているのとみていいでしょう。2021年に国際相場に比べ政府売渡価格が跳ね上がっているのは、新型コロナウイルスによる経済の停滞が正常化されてきたことによる期待感で海上運賃が年初に比べ5倍に高騰した事を受けてのもの。

小麦の国際相場は近年上昇傾向なのは間違いないものの、2008~2012年に比べればまだ安価ですし、政府売渡価格も同様の値動きであることが確認できたのではないでしょうか。

製粉メーカーの小麦粉値上げの歴史

さて、ここからが本題。

小麦の国際相場や政府売渡価格は、上下動の波を繰り返しながらも一定の価格帯に納まっている「レンジ相場」でしたよね。

では製粉会社の小麦粉価格はどうなのか?

日本において2位以下を大きく引き離し断トツ1位の売り上げを誇る「日清製粉グループ」が行ってきた、家庭用小麦粉の価格改定を可能な限り拾い上げてみましょう。

価格改定日と改定率 参考サイト
公式サイト 株式会社日清製粉グループ
2007年11月 3~5%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2008年5月 6~13%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2008年11月 4~6%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2009年6月 1.5~6%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2010年1月 1~6%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2010年6月 1~2%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2011年7月 3~5%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2012年1月 1~2%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2012年8月 2~5%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2013年1月 2~5%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2013年7月 2~7%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2014年1月 1~4%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2014年8月 1%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2015年7月 1~3%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2016年2月 2%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2016年8月 1~2%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2017年2月 1~2%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2017年7月 -0.4%・+2.3% 日清フーズ ニュースリリース
2018年1月 1~3%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2018年7月 1~2%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2019年1月 1~3%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2020年2月 0.6~1.2%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2020年9月 1~2%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2021年2月 0.3~0.9%値下げ 日清フーズ ニュースリリース
2021年7月 2~4%値上げ 日清フーズ ニュースリリース
2022年1月 3~6%値上げ 日清フーズ ニュースリリース

日清製粉グループのニュースリリースを調べてみると、相場が大きく変動しだす2007年以降、家庭用や業務用小麦粉は年に1~2回価格改定を行っていることが見て取れます。

それ以前…2000~2006年に関しては小麦粉の価格改定に関するリリースが存在しておらず、ただ単に公表していなかったのか、小麦価格が安定していたことから価格改定を行ってこなかったのかは不明。

予想外だったのは、予想以上にこまめな価格改定もさることながら、小麦の政府売渡価格が下がれば家庭用・業務用小麦粉の値下げもしっかりと行っている点。

政府売渡価格が上がれば値上げする一方、政府売渡価格が下がっている時はだんまりかと思っていた。製粉会社さんごめんなさい。

しかし、疑り深い私は抜き出した価格改定の情報をもとに、政府売渡価格と家庭用小麦粉の価格推移を比較してみる。

とはいえ、商品によって値上げ・値下げ幅が異なるため、正確な価格の推移をお伝えするのは不可能と前置きしたうえで、2007年10月までの家庭用小麦粉価格を100とし、どのくらいの割合で上下動しているのか、値上げ・値下げ幅の中間(3~5%値上げなら4%)で計算しながら表にしてみました。小数点第二位は四捨五入。

価格改定日と改定率 参考数値
2007年11月 3~5%値上げ 104
2008年5月 6~13%値上げ 113.9
2008年11月 4~6%値上げ 119.6
2009年6月 1.5~6%値下げ 115.1
2010年1月 1~6%値下げ 111.1
2010年6月 1~2%値下げ 109.4
2011年7月 3~5%値上げ 113.8
2012年1月 1~2%値上げ 115.5
2012年8月 2~5%値下げ 111.5
2013年1月 2~5%値上げ 115.4
2013年7月 2~7%値上げ 120.6
2014年1月 1~4%値上げ 123.6
2014年8月 1%値下げ 122.4
2015年7月 1~3%値上げ 124.8
2016年2月 2%値下げ 122.3
2016年8月 1~2%値下げ 120.5
2017年2月 1~2%値下げ 118.7
2017年7月 -0.4%・+2.3% 119.8
2018年1月 1~3%値上げ 122.2
2018年7月 1~2%値上げ 124.0
2019年1月 1~3%値上げ 126.5
2020年2月 0.6~1.2%値下げ 125.4
2020年9月 1~2%値上げ 127.3
2021年2月 0.3~0.9%値下げ 126.5
2021年7月 2~4%値上げ 130.3
2022年1月 3~6%値上げ 136.2

あくまでも参考ながら、家庭用小麦粉の価格推移が見て取れると思います。

これを小麦の政府売渡価格と重ねてみます。政府売渡価格は家庭用小麦粉同様、2007年10月までの価格を100としています。

小麦の政府売渡価格と家庭用小麦粉の価格比較

政府売渡価格と家庭用小麦粉の推移の傾向こそほぼ同じであるものの、製粉会社は価格への転嫁を極力抑えていることが見て取ます。

それが顕著な例として、2007年10月から政府売渡価格は10%・30%・10%と大幅値上げしているのに対し、家庭用小麦粉の値上げは3~13%の値上げに抑えている点が挙げられます。消費者への影響を最小限に抑えようという配慮が見られる。

ただし、価格の大幅な変更を抑制しようという動きは小麦の政府売渡価格値下げ時も同様で、2007年以降政府売渡価格の上昇率より家庭用小麦粉の上昇率の方が高い傾向に。特に2015年(平成27年)からの小麦価格の急落時から政府売渡価格と小麦価格の差が開いている。

値上げは渋いが、値下げはもっと渋いといった印象か。

ただ、お菓子をはじめとする様々な商品が2007年以降に20~50%ほど値上げや実質値上げしていることを考えれば、家庭用小麦粉の値上げは最小限と言えるでしょう。

改めて製粉会社さんごめんなさい。

小麦粉二次加工品は値上げする一方

よくニュースなどで見聞きする「小麦の政府売渡価格上昇による小麦粉の値上げ」に関しては、“製粉会社が販売する家庭用・業務用小麦粉は政府売渡価格が下がれば値下げもしっかり行っている”という結論に達しました。

そういった製粉会社の真摯な対応から、主に小麦粉が原材料となっている商品も同じような対応を取っている…と思ったら大間違い。

例えば、業務用・家庭用小麦粉においては政府売渡価格を反映し値上げや値下げを行っている日清製粉。小麦粉に関しては政府売渡価格に連動して値下げを行っている一方、小麦粉二次加工品に関しては値上げする一方という現実があるのです。

この「小麦粉二次加工品」というのは主に下記のような商品を指します。

  • パン類
  • 麺類
  • 菓子類

実質値上げされる商品の代名詞ともいえるお菓子や、小麦粉同様値上げがニュースで取り上げられることも多いパン、日本人であれば誰もが好きであろううどんやそば、ラーメン、パスタなどの麺類がそれに当たります。

日清製粉の小麦粉二次加工品の価格改定

前述したとおり、業務用・家庭用小麦粉に関しては政府売渡価格に連動し、値上げはもちろん値下げもちゃんと行っている日清製粉。

一方で日清製粉が製造・販売している小麦粉二次加工品はというと…家庭用小麦粉同様2007年からの価格改定のニュースリリースを抜き出してみましょう。より身近な家庭用に絞って抽出。

値上げ実施月 値上げ率 参考サイト
2007年9月 ディ・チェコ パスタ 20% 日清フーズ
2007年11月 パスタ 9~13%
小麦粉二次加工品 2~10%
日清フーズ
2008年3月 パスタ 15~20% 日清フーズ
2008年5月 小麦粉二次加工品 2~12% 日清フーズ
2008年9月 ディ・チェコ パスタ 6~25% 日清フーズ
2008年11月 小麦粉二次加工品 3~7% 日清フーズ
2011年7月 小麦粉二次加工品 2~12%
国産パスタ等 5~7%
日清フーズ
2015年1月 国産パスタ 5~8% 日清フーズ
2015年3月 ミックス 2~4% 日清フーズ
2015年7月 小麦粉二次加工品 2~5%
国産パスタ 5~6%
日清フーズ
2018年1月 ミックス 2~4% 日清フーズ
2019年1月 ミックス 2~4% 日清フーズ
2021年7月 ミックス 2~4%
そば 2~9%
パスタ 2~8%
日清フーズ
2022年1月 ミックス 4~6%
パン粉 3~4%
乾麺製品 6%
パスタ 3~9%
日清フーズ

これらの割合(%)はすべて値上げのもので、もちろん値上げのニュースリリースだけを抜き出したものでもありません。小麦粉は積極的に値下げを行う日清製粉も、小麦粉二次加工品に関しては値上げ一辺倒であることが見て取れます。

山崎製パンの小麦粉二次加工品の価格改定

日清製粉の小麦粉二次加工品はパスタやてんぷら粉、ミックス粉などがメインでしたが、それら以上に私たちの身近に存在する小麦粉二次加工品といえば…そう、「パン」ですよね。

というわけで、日清製粉に続いて製パン業界最大手である山崎製パン株式会社の価格改定の歴史についても見ていきましょう。

値上げ実施月 値上げ率 参考サイト
2007年12月 食パン・菓子パン 8% 朝日新聞
2008年5月 食パン・菓子パン・和菓子 8% 山崎製パン
2011年7月 食パン 7%
菓子パン 5%
和菓子 5%
山崎製パン
2013年7月 食パン 3~6%
菓子パン 2~6%
山崎製パン
2018年7月 食パン 2~5%
菓子パン 2~7%
山崎製パン
2022年1月 食パン 9%
菓子パン 6.8%
山崎製パン

価格改定のニュースリリースをすべて抜き出しているため、値上げのみをフォーカスしたものではありません。

このように小麦粉二次加工品に関しては輸入小麦の政府売渡価格が大きく上昇したタイミングで値上げを行う一方、小麦の値下がり時はだんまりを決め込むという日本の企業姿勢が確認できたのではないでしょうか。

小麦粉二次加工品はなぜ値下げしないのか?

家庭用・業務用小麦粉は政府売渡価格が下がれば値下げを行うのに、小麦粉二次加工品はなぜ一切値下げを行わないのか?

製粉会社や製パン会社、菓子メーカーなどはあくまでも営利目的の企業であるため、「売れるなら値下げする必要はない」という判断はある意味正しい。十分な売り上げがある商品を値下げする理由など存在しませんからね。

ただ、利益のみを追求した結果頑なに値下げを行わないのかといえば、必ずしもそうではありません。

家庭用や業務用の小麦粉というのは、政府から買い上げた小麦を各製粉会社が大規模なプラントにて製粉し販売しています。様々な製造過程を経るとはいえ、商品開発などを積極的に行うわけではないので、比較的低コストで製品化できるといっていいでしょう。

一方で小麦粉二次加工品は違います。

ライバル他社との激しい競争に晒されるパンや麺類、菓子類などの小麦粉二次加工品は新商品開発に人件費など多くのコストをかけており、新商品が開発されるたびに工場のラインを見直す必要が。パッケージなどのデザインだってタダじゃない。

また、使用する原材料は小麦粉だけに留まらず多岐にわたり、人件費も上昇傾向。そこに原油価格なども考慮すれば、小麦の政府売渡価格に連動した値下げが難しいことは理解しておく必要があるでしょう。

そんなこと頭では分かっている。分かっているけど腹が立つ。それが値上げや実質値上げに対する多くの消費者の本音なのではないでしょうか。

小麦粉二次加工品には様々なコストがかかっているとはいえ、数年に一度くらいの頻度で訪れる原油や穀物価格の急落時も値下げを行うことはまず考えられませんからね。

まとめ

小麦の国際価格や政府売渡価格、そして製粉会社や小麦粉二次加工品の価格を調べていく中で、良い意味で期待を裏切られたのは「家庭用・業務用小麦粉に関しては政府売渡価格に連動して値上げ・値下げ行っている」という点。

政府売渡価格の推移と比較すれば若干の値上げ傾向にあるものの、その幅は15%前後。様々な食品が20%30%と値下げされてきた中において、この値上げ率というのは素直に好感が持てます。

一方で、主に小麦粉を主原料とした小麦粉二次加工品は値上げする一方だったことは想像通りといったところでしょうか。

当サイトにおいて商品単位で紹介しているように、製パン会社や製菓メーカーが散々値上げを行ってきたことは明白。小麦粉に関してはしっかりと値下げを行っている製粉会社ですら、小麦粉二次加工品に関しては値上げしか行っていないのですから。

ただ、前述したとおり家庭用・業務用小麦粉に比べ、様々なコストが乗っかっている小麦粉二次加工品は、小麦の政府売渡価格が下がったからといって値下げしにくい商品であるのも確か。

でも釈然としない。この背景には物価ばかり上昇して給与はほとんど上がっていない日本の実情が存在するのは間違いないでしょう。物価が上がっても、それと同等かそれ以上の割合で給与が上がれば文句はないでしょうから。

安定的かつ持続的な経済発展には緩やかなインフレ(物価上昇)が好ましい…これは世界的にごく当たり前の考え方。しかしそんな“当たり前”が通用しない国…それが失われた30年からいまだ抜け出せずにいる日本の現状なのです。

そういった背景や日本の実情を十分理解したうえで私の本音はというと…

「小麦価格が下がったなら商品価格も下げやがれ」

貧乏は心まで貧しくしますね。

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