原油価格とガソリン価格は連動しているのか?
私達の生活に欠かすことができない「ガソリン」。昔に比べてずいぶんと高くなった印象を受けますよね
かつては100円を切ることも珍しくなかったガソリン価格も、近年のレギュラーガソリンは130~170円と高値が続いており、確実に生活を圧迫しています。
ガソリンは原油から精製されて作り出され、大元となる原油の価格は日々上下動を繰り返しています。原油相場が上がればガソリンや軽油、灯油などの価格も上昇する…
それを理解している人は多いでしょう。しかしこんな疑問が湧いてきませんか? 「原油価格とガソリン価格ってどこまで連動しているんだ?」、と。
結論から言えば、原油価格に対しガソリンや軽油・灯油価格は明らかに高くなっています。それはもう腹が立つほどに。
原油価格の長期推移
さっそく原油価格の長期推移を見てみましょう
2000年以前の原油相場は長らく1バレル10~30ドル付近で安定していましたが、2000年以降は主要な産油国である中東情勢の不安定化や、中国など新興国の台頭による需要拡大などが重なり、原油価格は急激に上昇し始めます。
2008年には大台となる100ドルを突破し、上昇はさらに加速。2008年7月には史上最高値となる1バレル145.29ドルを付けるも、直後に起こったリーマンショックにより暴落。
一時は30ドル台まで下落する場面もありましたが、その後徐々に持ち直し、2011~2014年半ばまでは100ドル台を挟む展開。しかし2014年後半になると米のシェールオイルの生産が拡大し供給過多が懸念される事態に。
本来であれば、供給が過剰になり原油価格が下がる局面下では、中東など従来の産油国は減産を行い原油価格の維持に務めるのがセオリー。しかし2015年の原油急落時も産油国は減産を行わず、結果原油価格は急落しています。
なぜOPEC(石油輸出国機構)は原油価格急落も減産を行わなかったのか?
一説には、あえて原油価格急落を引き起こすことで、強力なライバルとなった米シェールオイル生産の収益を悪化させ、シェールオイル事業の縮小を狙ったものと言われています。
原油価格の急落はOPECなど産油国にとって大きなダメージになるものの、米のシェールオイルを生産する企業に打撃を与えておけば、将来的に優位に立てる…というチキンレースに持ち込んだのです。
その後は60ドル前後で推移するも、2020年に襲った新型コロナウイルスの影響で再び急落、一時は原油先物価格がマイナスになるという信じられない状況に。
しかし、ワクチン接種が広がり新型コロナウイルスの共存・収束が進むにつれ原油価格は再び高騰、2021年10月には80ドルを超えています。
比較的安定していた20世紀、様々な思惑により乱高下を繰り返すようになった21世紀という構図が見て取れるのではないでしょうか。
ガソリンの長期推移
2000年以降は大きく上下動してきた原油価格。ではその原油から精製されるガソリン価格はどういった推移を辿ってきたのか。
上図は東京のガソリン1L当たりの小売価格。1970年半ば以降でガソリン価格が100円を割っていたのは1998~1999年頃のみと、ほんの一時だったことが見て取れます。
ただ、当時はガソリンスタンドが乱立していたこともあり、価格競争が激しい地域ではレギュラーガソリンが80円台だったことも。
その後は原油価格の高騰に合わせガソリン価格も急激に上昇し、2008年には一時180円を超えています。
直後のリーマンショックによる原油価格急落でガソリン価格は100円に迫る場面があるも、再び上昇。2014~2015年にかけてのシェールオイルに絡む問題などで一時は安くなるなど、原油価格と連動した動きになっています。
しかし本当にそうなのでしょうか。昔に比べ原油価格に対しガソリン価格が高い気が…そう感じている人も多いのではないでしょうか? 実際私自身もその一人ですしね。
原油価格とガソリン価格の比較
以前よりガソリンが高い気がするという疑問を解消するために、「以前は100円切っていた」という記憶を強烈に植え付けた1999年頃を基準に、原油価格とガソリン価格の推移を重ねてみました。
1999年は歴史的にも原油が安かった時期であり、一時は1バレル10ドルくらいまで値下がり。それを受けて日本のガソリン価格も100円を切る状況となっていました。
その後の原油価格とガソリン価格の推移を比べてみると、全体的な傾向としては見事なほど一致しているのが見て取れます。ですが…
これを見てお気付きの人も多いと思いますが、2014年の原油価格急落までは原油価格とガソリン価格はほぼ連動、もしくはガソリン価格の方が相対的に安い傾向にありました。しかし2014~2015年に起きた急落から状況が一変しています。
そう、原油価格の下落に対しガソリン価格は高止まり傾向になっているのです。
2014年以前はガソリン価格が160円に達する状況において原油価格は100ドル前後となっていました。しかし2015年以降は原油価格70~80ドルほどでガソリン価格が160円を伺う事態に。
ガソリン価格がピークを付けた2008年、原油価格の最高ねが約145ドル。一方のガソリン価格は182円でした。しかし現在の状況であれば、原油価格が100ドルに達した頃、ガソリン価格は180円に到達していることでしょう。
「近年、原油価格に対してガソリンが高いな…」と感じていたその感覚、間違いではなかったのです。
なぜガソリン価格は高くなったのか?
「なんでガソリンは高くなっているの?」
こんな質問に対し、ある程度経済に明るい人であれば「それは原油価格が高騰しているからだよ」と優しく答えることでしょう。
確かにそれが正解。ガソリンや軽油、灯油など石油製品の値上げが起こる最大の要因は原油価格の上昇であることは疑いようがないからです。しかし、前述した通り以前に比べ原油価格に対しガソリン価格が高くなっている現実も。
その背景には何があるのか? 理由は様々考えられます。
- 価格競争の減少
- 人件費の上昇
- ガソリン需要の減少
- 消費税増税
ひとつずつ見てみましょう。
価格競争の減少
かつて石油業界は様々な企業が存在し、ガソリンスタンドの数も現在に比べかなり多かったため、熾烈な価格競争が繰り広げられてきました。1999年頃にレギュラーガソリンが80円台だった地域は、まさに激しい価格競争が行われていたのでしょう。
しかし、自動車の低燃費化や人口減少、高齢化などによりガソリン需要が減少。各社厳しい経営のなか石油業界は再編の動きが広がり、合併や経営統合が相次ぎます。
現在での主要な石油元売り業者は3社、あまり見かけないが太陽石油とキグナス石油を含めれば5社。1980年代は15社ほど存在していたことを考えると、「激減した」といって差し支えないでしょう。
例えば「ENEOS(エネオス)」で知られるJXTGホールディングスは、日本石油や三菱石油、ゼネラル石油、エッソ石油、モービル石油など計9社が経営統合した結果生まれた企業。
出光・昭和シェルはその名の通り出光興産、昭和石油、シェル石油の3社が合併したもの、コスモエネルギーホールディングスも同様に3社が経営統合し現在に至っています。
こうやって再編が進んだことでかつての価格競争はなりを潜め、結果以前に比べ原油価格に対しガソリン価格が高くなる昨今の状況が生まれたと見ていいでしょう。
石油業界再編はガソリンスタンドの減少も加速。これも価格競争が起きなくなった一因なのでしょう。1994年には全国で6万件を超えていたガソリンスタンドも現在は3万件を割っていますからね。
競争原理が働かなくなった石油業界。その結果周囲のガソリンスタンドは示し合わせたようにどこも同じ価格で横並びという状況に。
一消費者としてはまったくもって嬉しくない状況といえるでしょう。
人件費の上昇
世界的に見て後れを取っている日本の収入。それを是正するために2000年代半ば頃から最低賃金の底上げを段階的に行っており、これがガソリン価格の高止まりを招く原因の一つと考えられます。
2000年からの最低賃金の全国平均を見てみると、2000年から2006年頃までは660~670円程度で横ばいだったものの、その後は加速度的に上昇しており、2019年には900円に到達。
翌2020年は新型コロナウイルスの影響もあり据え置きとなりましたが、2021年には大幅に上昇し930円に。政府が目標として掲げる「全国平均1,000円」が現実味を帯びてきています。
セルフスタンドが増えガソリンスタンド単位での人件費は減少している一方、精製・配送など人件費は確実に増加。それがガソリン価格に転嫁された結果、昨今の“値下げは渋いガソリン価格”が形成されているのです。
…のはずなんだが、私自身収入が増えている実感はない。底辺は辛いな…
ガソリン需要の減少
上でも少し書いたように、昨今の自動車の低燃費化、ハイブリッドカーや電気自動車の広がりに加え、人口減少や高齢化といった要因が重なり、ガソリン需要は着実に低下してきています。
「価格は需要と供給のバランスで決まる」という市場原理から考えると、ガソリン需要の減少は値下げに繋がりそうな印象を受けます。
しかし、世界的に見ればガソリン含め原油の需要が減少すれば、産油国は基本的に減産に舵を切るため、思いのほか原油価格は下がらず、それに連動するようにガソリン価格も維持される傾向に。
また、前述したとおりガソリン需要の減少による経営状況の悪化は、石油業界の再編・統合を促すこととなり、結果価格競争がなくなり値段が下がりにくい状況に。
もちろん、ガソリン需要減による採算悪化により値上げに踏み切らざるを得ないという状況も考えられるでしょう。
ガソリン需要の増加は値上げや下げ渋りに繋がる一方、ガソリン需要の減少は必ずしも値下げに繋がるわけではない…どころか回りまわって値上げ圧力に繋がる場合も。
なんとも理不尽な話である。
消費税増税
ガソリン価格の上昇の理由として忘れてはならない要素として「消費税」も挙げられます。
全国のガソリン平均価格は消費税が含まれた価格となっており、ご存知のように現在の消費税率は10%。しかし2014年3月までは5%でしたよね。2014年4月に8%に引き上げられ、2019年10月から現行の10%へ。
仮にガソリンの税別価格(本体価格+ガソリン税)が150円だとすると、消費税5%時は税込157.5円。一方10%の現在では165円と7.5円値上がりしたことに。
実際、上記の原油価格とガソリン価格を重ね合わせた図を見てみても、消費税が8%に増税された2014年を境にガソリン価格の割高感が目立つようになっている。
2000年頃に比べガソリン価格に割高感があるのは間違いないものの、当時に比べ消費税が5%上がっていることを考えれば致し方ない面もあり、同時に「消費税まで加味すると思ったほど上がっていないな」という印象も。
にしても、ガソリン税に消費税をかける二重課税は相変わらず。石油業界のやり方以上に政府の「一度施行した税は廃止しない・下げない」という姿勢には本当に腹が立ちますね。
ガソリン価格の値上げ・値下げの方法に問題も
ガソリン価格というのは、日々上下動を繰り返す原油価格が即座に反映されるものではありません。
実際、原油価格がガソリン価格に反映されるまでの時間差について、「ガソリンスタンドの地下タンク内に貯蔵されているガソリンが入れ替わるまで1週間ほどの時間がかかるため、価格反映にはどうしてもタイムラグが生じる」と聞く。
確かに説得力はある。一方でガソリン価格に対しこんな印象を持ったことはありませんか?
「値上げするときは5~6円一気に上げることも多いのに、下げる時は1~2円単位でじわじわ値下げするよね」、と。
これは地域によって違うのかもしれませんが、少なくとも私が住んでいる地域はまさにそんな感じ。原油価格が上がるとすぐにポンッと数円値上げするくせに、原油価格が下がっている場面では1円単位でちびちび値下げ。
なんなんだコイツら。
地下タンクの在庫が残っている状況では価格を変えられないのは理解できる。しかしそれは値上げ時も値下げ時も同様のはず。なのに値上げは素早く値下げは鈍い…こういった姿勢、なんかイラっとしますよね。
少しでも高く売って利益を確保したいというのは健全なる企業戦略なのだろうが、こういった動きも相まって「高止まりしている」「なかなか値下げしない」というイメージが醸成されている面も否定できないかと。
ガソリン価格は高くなっている
電車があれば不自由しない大都市圏ならまだしも、田舎に行けば行くほど自動車は必須となり生活に直結するガソリン価格。多くの方が感じているように、ガソリン価格は確実に上昇しています。
その背景には原油価格の高騰のみならず、石油業界の再編による価格競争の減少、人件費の上昇、需要の増減、消費税に至るまで様々な要因が存在。以前に比べ原油価格に対しガソリン価格が高止まりしている状況に。
「失われた30年」といわれる状況に陥っていた日本を尻目に諸外国は確実に成長しているのですから、輸入に頼る限り様々なコスト増に見舞われるのは仕方ない…頭では分かっているが…
1998年の消防法改正から人件費を抑制できるセルフ式のガソリンスタンドが増え、業界再編により経営の効率化も図られているはず。にもかかわらずガソリン価格が高止まりしているのは納得できない気も。
また、原油価格やガソリン価格の高騰は「給油」という直接的な影響以外にも、輸送費や梱包資材、暖房費など様々なサービス・商品の値上げ圧力に繋がる。
給料が上がらない中での値上げは本当に辛い…
ガソリン価格の値上げや高止まりに対し私達ができる精一杯の自衛策は、急加速・急減速をしない丁寧でエコな運転を心がけること、必要ない荷物を積まない事、無駄な外出を控えることくらいか。あとは重量物を減らすためのダイエット?
ちなみに、よく耳にする「低燃費の車に買い替える」は、多くの場合「イニシャルコスト>ランニングコスト」になり本末転倒。燃料代節約を理由とする乗換えをご検討の際は、コストの計算をしっかり行ってから判断するようにしましょう。